旬のひと・もの・こと特集

第10回 四谷の千枚田

鞍掛山麓千枚田保存会 会長 小山舜二さん(2021.10.28)

【四谷の千枚田】
愛知県新城市四谷230

「四谷の千枚田だより」

先人が培った奥三河の宝を再興、
「ミネアサヒ」実る石積み棚田。

『日本の棚田百選』の中でも白眉!
急傾斜がもたらすまさに「千枚田」。

 愛知県新城市北部に位置する鞍掛山(くらかけやま)の麓には、古くは室町時代に開墾された山間集落があり、斜面に沿って息をのむほど美しい棚田が広がっています。
 転石や山崩れで流れ出た石を積んで造られた『四谷の千枚田』は、標高260m付近から鞍掛山頂に向かって460 m付近まで続いており、その標高差は実に約200mもあります。80〜85段の田んぼが折り重なるドレープのように曲線を描き、山間に幻想的な風景を描き出しています。


写真提供:一般社団法人 奥三河観光協議会

 「農水省によると、一般的な棚田とは傾斜1/20(水平方向に20mごとに1m高くなる傾斜)以上とされていますが、四谷の千枚田はなんと6mで1m上がる急傾斜が特徴。日本の棚田百選、日本三大石積みの棚田のひとつに数えられています。春は水鏡、夏は青々とした苗、稲刈りの頃の稲穂の黄金色、そして天日干しの“はざかけ”風景が、ここの風物詩ですね」。
 棚田を見渡しながら熱く語るのは、<鞍掛山麓千枚田保存会>の会長を務める小山舜二さん。生粋の四谷生まれの四谷育ちで、現在80の齢を越えてなお、精力的に棚田保全の活動や地域活性化をはじめ、多方面で尽力されています。


写真提供:一般社団法人 奥三河観光協議会

大災害も乗り越えた先人たちの棚田を、
絶やすことなく次世代へと渡したい!

 傾斜厳しい山林を心血注いで開墾した先人たち。ところが明治37年(1904)、「大代の山崩れ」と呼ばれる大規模な山崩れにより、土砂が流出して人家にも多大な被害を及ぼし、沢沿いの棚田も全て崩壊してしまいます。
 このとき村人たちは、惨禍にもめげず棚田復興に全力を注ぎ、わずか5年ほどで堅牢な石積みの棚田を蘇らせたと伝えられています。この畦(あぜ)や石垣が、大雨の際の土壌浸食を防ぐとともに、保水機能によって水が一気に流水するのを抑え、災害防止の一助も果たしています。

 そうした苦難の上に伝え継がれてきた貴重な棚田を保全し、農業労働力の確保と農業振興、地域の活性化を図るために平成9年に発足されたのが、『鞍掛山麓千枚田保存会』でした。
 「昭和48年頃は、千枚田の名のとおり1,296 枚もの棚田が耕作されていましたが、国の減反政策により年々耕作放棄が拡大し、平成初期にはわずか373 枚にまで減少してしまったんです。

 先祖が苦労を重ねて築いた田んぼを私らの世代に失くしてはならない。平成3年50歳の誕生日に、この四谷の千枚田を“地域の宝”として守っていこう!と保存活動に立ち上がりました」。

 小山さんはまず、平成六年愛知国体会場にて、この棚田の写真展を開催。それを目にした賛同者などの支援を得て、やがて農道等が整備され、その頃から来訪者も増え始めました。平成17年には悲願だった「全国棚田(千枚田)サミット」の開催も実現しました。

 「さまざまな軋轢や苦難もありましたが、皆で力を合わせて保全の取り組みを続けた結果、420枚まで復田することができました。現在は大代、大林、身平橋、田の口の4集落で約26戸が耕作をしています。近年は若い世代も参加し、意欲的に取り組んでくれているのも、心強いことです」と、小山さんの表情も和らぎます。

 保存会を中心に、地元の小中学校をはじめ、田植え・稲刈り体験や生き物観察会、「お田植えの夕べ」「収穫感謝祭」等のイベントを通じて都市と農村の交流を図りながら、里山の環境整備、美化活動にも取り組んでいます。また、小山さん自らが執筆し、『四谷の千枚田だより』を毎月発行。内閣認定の地域活性化伝道師としても活躍するなど、全国発信にも力を注いでいます。



ヤマサちくわの田んぼで収穫、
幻の米ミネアサヒをお届けします。

 「棚田の水源は、鞍掛山の山頂に降り注いだ雨。山の中腹から湧き水となって棚田全体を潤し、昔から大雨が降っても濁ることはありませんでした。昭和40年代には毎秒20リットルもの流量があり、水涸れにも困りません。現在は7リットルほどで、田んぼの規模とちょうどいいバランスが保たれていますね(笑)。
 常に水が潤沢な田んぼは、さまざまな動植物が生息する多様性豊かなビオトープにもなっています。稀少なモリアオガエルも戻ってきましたよ」。
 そう語る小山さんが特に力を入れてきたのが、はざ干し(天日干し)による“幻の米”ミネアサヒの栽培。農業試験場で育種や品種改良に携わってきた経験から、この土地に適しているとして、推進に努めてきたと言います。

 「平地では作りにくいとされる品種ですが、昼夜の寒暖差による夜霧・朝露、さらにはざ干しすることで雨が稲にくぐって熟成されるんです。うまいに決まっていますよね。小粒ながら甘みが強く、喉越しが良い。愛知農業水産展では、全国47銘柄の試食で「おいしい」とずば抜けて人気でした。
 棚田は天候の変動が大きく、毎年同じようにはなりません。それぞれの感覚、知恵、方法で米のできばえも変わってくる。だから四谷の農人は 百姓ではなく、“アーティスト”なんです」。

 そんな四谷の千枚田に稲刈り体験に訪れたことがきっかけで、棚田とミネアサヒの美味しさに感激し、エールを送るのが、ヤマサちくわ株式会社 7代目 佐藤元英社長。棚田の一角に『ヤマサちくわ』の田んぼを借り、毎年社員有志とともに田植え・稲刈りに訪れています。

 今年の新米の稲刈りは、GEN-B希望者とともに出向いたものの、あいにくの雨に。小山さんに棚田を案内いただきながら、“エア稲刈り”で記念撮影。山の傾斜に沿って、濃く立ち込める霧中に浮かび上がる棚田のはざかけ風景もまた、幻想的で素敵でした。

 後日の晴天日に佐藤社長があらためて訪れ、はざかけで乾燥させたお米の脱穀を行ってきました。今年も実りの秋の味を3回にわたってお届けする<さんかい美味倶楽部>セットで、収穫した「ミネアサヒ」の新米をお届けしています。

 愛知にしかない、三河にしかない「地域の宝」を守り育て、豊かな実りを全国のGENBIANにお届けしたい。そんな思いを四谷の棚田の皆さんと結びながら、日本のお米の美味しさ、大切さをお伝えしていきます。


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