旬のひと・もの・こと特集

第9回 豊橋銘菓

御菓子所 絹与(2021.07.13)

【御菓子所 絹与】
愛知県豊橋市呉服町61番地

公式サイト

オンラインショップ
写真提供:御菓子所 絹与

東海道「吉田宿」で創業280余年、
一子相伝の自家製餡でつくる羊羹。

中国から禅僧が伝えた「羊肉の羹(あつもの)」が
漆黒の宝石とも呼ぶべき至高の甘味に!

 世界中でも類を見ないほど、シンプルを極めた和菓子「羊羹(ようかん)」。侘び寂び や禅の思想にも通ずるその奥深さは、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』や夏目漱石『草枕』など、作品中でも賞賛されたたほど。
 羊羹の「羊」はひつじ、「羹(あつもの)」は熱い汁物に由来し、鎌倉〜室町時代に禅僧によって中国から伝来しました。ところが禅宗では肉食が禁じられているため、羊肉の代わりに小豆や葛粉を用いた蒸しものが羊羹のはじまりと言われています。

 羊羹には、蒸し羊羹、練り羊羹、水羊羹があります。歴史が最も古いのは蒸し羊羹ですが、一般的に羊羹と言われる「練り羊羹」が誕生したのは江戸時代。小豆を炊いた餡に砂糖を入れ、寒天を溶かして練り上げることから、練り羊羹と呼ばれます。多くの砂糖を使うため日持ちし、しっとりとなめらかで味わいも良いことから、茶の湯文化とともに全国に広まっていきました。

江戸後期、呉服問屋から「御菓子司」へ
自家製餡にこだわり続ける豊橋最古の老舗。

 江戸期まで吉田と称され、三河国吉田藩の城下町として東海道五十三次の二川宿(33 番目)に続く吉田宿(34番目)の宿場町として栄えたのが、現在の豊橋市中心部。旧東海道沿いの呉服町に店を構える「御菓子所 絹与」は、1734年創業(享保19年)。豊橋市内の和菓子屋で最も歴史がある老舗で、現在は羊羹と最中、干菓子を製造・販売しています。

 「江戸時代の享保年間、八代将軍徳川吉宗の殖産政策の一環として吉田藩の藩命により製糖を命ぜられました。当時の工場の棟瓦に享保十九年(1734)寅の九月甫と記されており、それから数えて今日で十代になります。
 東海道の要衝に位置する吉田藩に訪れる参勤交代の諸侯に供する御菓子箪笥御用を受け賜り又、煎茶道売茶流の売茶翁の指導を受けた二代目 神戸藤次郎が考案した「玉霰」を有栖川宮家に献上したところ、鷹司宮家より名誉ある「御菓子司」を允許されております。

 各所神社仏閣の御用も承り中でも三州豊川稲荷様の御供物、御茶菓子の御用 は天保年間より承っており、江戸時代、寒天羊羹が一般化してからは、羊羹・ 打ち物菓子を主力に今日に至ります。」(公式サイトより)

 屋号の『絹与』は、創業当初呉服商だったことに由来。ひとつひとつの素材を厳選し、享保年間より続く昔ながらの製法を守り続けています。和菓子の要でもある餡は、昨今は製餡所(あんこ専門業者)から餡を仕入れる和菓子店も多い中、素材の風味を生かすべく、北海道産小豆からじっくりと手間ひまをかけて丁寧に炊き上げ、自家製餡をこしらえています。

 「私が継いでまもなく急逝した先代の口伝が、“豆の顔を見て、餡から自分で作れ”でした。学生時代から先代のそばで羊羹づくりを手伝ってきましたので、見て覚えていた技術を今は次代を担う十代目と、毎朝二人で厨房に立ち、伝統の味を受け継いでいくことに勤しんでいます」と語る、九代目杉浦敏二さん。

釜につきっきりで小豆の「顔」を見る。
先代からの技を親子で伝え受け継ぐ。

 すべての餡の素になる「漉し粉」には、厳選した北海道産小豆(きたろまん)を使用。小豆をじっくりと炊いて、小豆が十分に膨らんだら、ザルにあけて渋みのあるアクを丁寧に洗い流し、「渋切り」をします。ふたたび釜に戻して3時間ほど炊き、小豆が柔らかくなったところで細かくつぶし、たっぷりの水を加えます。これを漉して皮を除いたものを麻袋に詰め、ゆっくりと圧力をかけて絞り出していく。ここまででも相当な労力ですが、これにより小豆のうまみと風味がしっかりと残り、餡の旨味の礎となるのです。

 羊羹づくりは、茅野産の棒寒天を煮溶かし、白双糖(ざらめ)、自家製餡を加えてじっくりと丁寧に練り上げます。こちちらは現在、主に十代目隆仁さんの仕事。約2時間半も、釜から離れず火の調節をしながら小豆の表情を見つめ続け、長い柄のしゃもじで手を休めることなくかきまぜ続けます。

 「ずっとつきっきりの仕事ですね(笑)。だんだん粘りが出てきて、手にズシッとした重みを感じると糖度も上がってきている証拠。頃合いを見計らって火から下ろし、粗熱を取ってから、さらにまたかき混ぜて均一に温度を下げていきます」。(隆仁さん)

 いやはや、たいへんな重労働です。そうしてようやく、つややかに練りあがった羊羹を、舟と呼ばれる型に流し込み、1週間ほどかけて味が“おさまる”のを待ちます。寝かすことで羊羹の中の砂糖が小豆に十分になじみ、さらに色濃く、ずっしりとした重厚感がありながら、絹与の羊羹ならではの清々しい甘みが醸されていくのです。

 最後に蜂蜜を加えるるのは、糖化を防ぐための絹与直伝の技だとか。深みのある艶、しなやかな弾力感がありながら、甘みがすっと舌に溶け、後口はすっきり。とりわけ、九代目が探し求めたという阿波産の和三盆を使った<今宵の友>は、瑞々しい甘さが後をひくと評判の逸品です。

 一棹ずつ切り分けて潔く角の立った練り羊羹や水羊羹の美しさは、文豪も唸る白眉そのもの。まさに全国に誇れる豊橋随一の“お宝”といえましょう。
 豊橋名産数々あれど、城下町らしい歴史と風格を持つ銘菓は、やっぱり手土産の華。東海道のいにしえに思いを馳せつつ、ぜひとも立ち寄ってその佳味に触れてみてください。

● 活動レポート第1回
第1回 三河GEN-Bの旅
「昔も今も変わらぬ旨さ」 その神髄に触れる(前編)


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